なぜ東武野田線は全線複線化しないのか

動機

 2019年、東武野田線(アーバンパークライン)(以下表記は東武野田線で統一する)逆井駅〜高柳駅〜六実駅間が複線化され、大宮駅〜春日部駅、運河駅〜柏駅〜船橋駅にかけて複線化が完了した。その後、清水公園駅〜梅郷駅の高架化も進み、同区間の複線化も期待されたが、なんと単線のまま高架が完成してしまった。そこで、全線複線化の可能性の考察も含めつつ、なぜ春日部駅〜運河駅の複線化が進まないのか検証する。

野田線の代表車両東武60000系
複線化された線路
高架化された線路(画像は高架移行前)

仮説

1. (単線区間は)利用客数が少ないから

2. 複線化の用地がないから

3. 東武鉄道に複線化の資金がないから

検証方法

・インターネットで調べる

・実際に乗ってみる

検証

仮説1

 この検証では、運行上主要駅で分け、大宮駅〜岩槻駅(複線区間)・岩槻駅〜春日部駅(複線区間)・春日部駅〜七光台駅(単線区間)・七光台駅〜運河駅(単線区間)・運河駅〜柏駅(複線区間)・柏駅〜高柳駅(複線区間)・高柳駅〜船橋駅(複線区間)のそれぞれで1日当たりの平均乗降客数を割り出し、それぞれの区間でどの程度乗降客数がいるか調査した。

 公式は以下に示す。

{(区間最初の駅の乗降客数)+(区間2番目の駅の乗降客数)+…+(区間最後の駅の乗降客数)}÷(駅数) ※小数点は四捨五入・乗降客数の日平均は東武鉄道公式サイトの2020年度の数値を使用

結果は以下の通り。

 大宮駅〜岩槻駅………28,836人/駅

 岩槻駅〜春日部駅……23,389人/駅

 春日部駅〜七光台駅…17,850人/駅

 七光台駅〜運河駅…..…8,340人/駅

 運河駅〜柏駅…………35,944人/駅

 柏駅〜高柳駅…………32,312人/駅

 高柳駅〜船橋駅………26,210人/駅

単線区間の乗降客数

 単線区間内でも乗降客数の変化が激しく、複線区間に近い駅(南桜井駅や梅郷駅など)が11,000〜13,000人と、ほどほどにいるのに対し、中間の駅(清水公園駅や野田市駅など)は、8,000人を切っている。

 以下の表は、単線区間(春日部駅〜運河駅)の各駅の乗降客数の日平均(東武鉄道公式サイトより引用)である。

春日部駅…..53,824人(東武スカイツリーラインを含む)

藤の牛島駅…5,643人

南桜井駅…..11,018人

川間駅……..13,136人

七光台駅……5,629人

清水公園駅…3,428人

愛宕駅………7,693人

野田市駅……7,392人

梅郷駅……..12,870人

運河駅……..13,025人

仮説2

 これについては、実際に春日部駅〜運河駅間に乗車して検証した。

 以下の画像からもわかるように、多くの場所ですぐに複線化できるほどに用地が確保してあった。また、南桜井駅の川間駅方、梅郷駅の野田市駅方それぞれ約1kmにわたって複線(正確には信号場はなく場内の延長)になっていた。

↑明らかに複線化を狙っている用地↑

 ↑用地取得に手間がかからない場所↑

南桜井駅の川間駅方

梅郷駅の野田市駅方

仮説3

 2019年に逆井駅〜六実駅間を複線化した際の費用を調べ、調査の裏付けをしようと思ったが、残念ながら費用が載っているサイトがなく、複線化にどのくらいの費用がかかるかはわからなかった。ただ、以下のグラフのように、東京スカイツリー開業(2012年)以降東武鉄道は順調に営業利益を伸ばしていて、資金不足に陥っているとは言いづらいと考えた。ただ、2020年からは、COVID-19(通称:新型コロナウイルス)の影響により赤字が発生していて、直ぐに複線化を実行できる状況ではなくなっている。

東武鉄道の売上高合計(棒グラフ)と営業利益(折れ線グラフ)(2000年〜2019年)

考察

 仮説1は、複線区間に比べ、単線区間の平均乗降客数がお世辞にも多いとはいえないため、複線化されない理由として適切と判断した。

 仮説2は、ほとんどの場所で用地を確保してあるため、複線化においてそれほどネックにはならないと判断した。

 仮説3は、新型コロナウイルスの影響を考慮しなければ、東武鉄道に資金がないとは言いづらく、複線化をためらう大きな要因とはなり得ないと考えた。ただ、線路を増やすことで恩恵を得られるのは鉄道会社と利用客のみであり、複線化の費用負担は東武鉄道が100%を占めると考えられるため、そのような観点からは複線化をためらう1つの要因となる可能性もあるとしておく。

感想・展望

 予想はしていたが、東武野田線が全線複線化されない最大の理由として、単線区間の駅の利用客数の少なさが挙げられることがわかり、納得した。ただ、仮説2の検証のように、多くの場所で既に複線化できる用地が取られているため、複線化しようと思えばできることもわかった。他にも、野田市駅が2023年をめどに2面4線化される計画があったり、七光台駅に2面4線化できる用地があったり、春日部駅が2031年に高架化され、同時に伊勢崎線(スカイツリーライン)との直通運転がしやすい線路配置になるなど、まだまだ複線化のチャンスがある。利用客増加・列車速度向上のためにも、単線区間沿線の宅地開発などを進め、早期の全線複線化を期待したい。

 今後も、新型車両60000系の導入から発展が止まらない東武野田線の動向を、1人の利用者、そして鉄道ファンとして追いかけていきたいと思う。

参考文献

①駅情報(乗降人員)|東武鉄道公式サイト

https://www.tobu.co.jp/corporation/rail/station_info/】最終閲覧日:8月18日

②東武鉄道株式会社【9001】のIR・有価証券報告書に基づく簡単財務分析|Valuation Matrix

https://valuationmatrix.com/companies/9001】最終閲覧日:8月18日

③東武野田線なぜ全線複線化せず? 単線のまま急行・特急新設&高架化のワケ

https://trafficnews.jp/post/105721】 最終閲覧日:8月18日